Feb 23, 2011

恭平と明星学園と音楽 Kyouhei & Myojo-gakuen's music

この前、小学校の友人が指揮をふるうオーケストラの演奏を聴きにいった。
名を富平恭平という。

演目は
ベートーヴェン
バレエ音楽『プロメテウスの創造物』作品43 序曲
交響曲 第1番 ハ長調 作品21
そして
交響曲 第5番 ハ短調 作品67『運命』

「日本では演歌調にされることの多いベートーヴェンの運命を
先生は『運命はこのように扉を叩かないのです』と宣言され、痺れました」
「『楽譜が求めているサウンドを検挙に再現する』
『定番演奏スタイルの常識に反しても平気』というスタンスに惚れてしまいました。」
 (演奏会プロデューサー 吉田弘一氏)

自分の好きなように、感情的な演奏をするのではなく、
楽譜を大切にし、作曲家をとてもリスペクトしている彼の指揮スタイルに
何かエゴを通り抜けた 人間の大きさみたいのも感じた。 

それは、ずっとクラシックをやってきた彼の答えなんだろうなあ、と思う。


同級生が燕尾服を着て「先生」と呼ばれる。
貫禄がついたその姿に感心しながらも
指揮する真剣さや動きは小学生の頃と変わらなくて、小学校の頃を思い出した。


私たちが通っていた明星学園小学校は変わっていた。

私立だったのだが、まず制服やランドセルという制度がない。
「学級のお友達は下の名前で呼びましょう。」と言う事で出席も名前で呼ばれる。

算数は、計算式を覚えて自動的に正解をだせても
なぜその答えになるのか、理由を説明できないとだめだった。

社会科では、縄文時代の授業で、土に縄で模様をつけて縄文土器を作った。

工作の時間、先生が刈ってきたきた羊毛を
解いて蒸して、染色して、紡いで(紡ぐためのスピンドルも作り)毛糸にし、
織り機を作って、その織り機と毛糸でポシェットを作った。

釘からナイフを作ったり、こけやたまねぎの皮で染色したり、様々なものを作った。

クウネルとか天然生活的な授業がたくさん
と考えてもらえば、わかりやすいかもしれない。

そんな小学校だった。

そんな小学校の音楽なら楽器とかまで作りそうなものだが
実際は、シンプルに合唱オンリーだった。
一般的に習うはずのリコーダーとか木琴とかトライアングルとか
一切の楽器を授業では習わず、6年間、ひたすら、合唱。

うちらの学年は上手上手とおだてられ、
学芸会ではオペラ風な劇をしたり、音楽会では伴奏なしで指揮だけの4輪唱したり、
普通の小学生ながらなかなかレベルの高い合唱団で
それは小さな72人の胸の中で初めて誇れることでもあった。

そんな訳でみんな音楽の時間が大好きだった。

みんなが音楽好きに育ったのは、私達の学年の音楽を担当していた秋野先生のおかげだ。
子どもの個性をのばすこの学校の、本当にバラバラな生徒たちを
秋野先生は、一人一人真剣に向かい合って、合唱の楽しさを教えてくれた。

手鏡を持ってくるようにいわれ、鏡で自分の口がちゃんと開いているか確かめながら唄う練習。
唄うときは、先生が指揮をして一人一人じっくり観察する。
口がちゃんと開いていない生徒には、恥ずかしがらずにしっかり開けるようになるまで時間を割いて面倒をみた。
何よりも、指揮をする先生が一番大きな口を開けて面白い顔になっていた。

先生がよくやってた指揮は、
『両手を平行に動かし、4つ数えた後で空手チョップみたいに上の手を下へ振り落とすふり』。
音を太く長くのばして、スパっときるイメージだ。
体全体でリズムを伝えてくれた先生だった。

授業中、そうやって先生はもっぱら指揮をして、伴奏は恭平が弾いていた。

そう、彼は小学生の頃からピアノの天才だった。
みんなが2年くらいかかるバイエルというピアノ教則本があるのだが、
恭平はそれを1週間くらいで終わらせてしまったくらいだ。

「学校から帰ると1日8時間くらいピアノを弾いているのよ。」(お母様談)

次の授業が音楽だと、みんな休み時間の最初から音楽室に行って、
恭平の弾くクシコスポストに合わせて、ピアノのまわりをグルグル走った。

今思えば、小学校低学年とは思えない力強いタッチで弾くその姿は、
作曲家の幽霊に取り憑かれているんじゃないかという程の迫力があった。


そんな恭平が東京芸大の指揮科に入ったと聞いても何も驚かなかった。

『やっぱりね、さすがだわ』と思った。

そして、恭平がオペラを中心に指揮をふっていると聞いて

『嗚呼、あの頃の音楽の授業が原点なのかもしれない』と胸が熱くなった。

ずっと指揮者の一番近くから、

唄うみんなを見ていたのは恭平だったから。


案外、自分の天職って子どものころから身近にあった物事だったりするもの。


好きなことを思いっきりやらせてくれる学校だったから
てんでバラバラな進路に進んだ同級生の近況を聞くのがとても楽しい。

そろそろ同窓会でもしないかな。

そんな事を考えながら家路についた。

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